「蛍の光」の原曲は、元々はスコットランド民謡の『Auld Lang Syne(オールド・ラング・サイン(ザイン) )』である。
スコットランド語の「Auld Lang Syne」は、英語の直訳だと「old long since」。日本語にするなら「古き良き時代」とか「懐かしき日々」くらいかな。元々は、旧友と再会し、思い出話をしつつ酒を酌み交わすといった内容である。
John Masey Wright and John Rogers' illustration of the poem, c. 1841
1881年(明治14年)にこの曲に日本語の歌詞が付けられ、尋常小学校の唱歌として誕生したのが「蛍の光」。原曲の歌詞の「盃を酌み交わそう」が子供にはふさわしくないので、日本では送別の歌となった。だから私のような昭和の世代では、卒業シーズンの定番だった。
毎年、大晦日のNHK紅白歌合戦の最後に歌われているが、昔ほどこの歌を聞くことは少なくなったように思う。
作曲者は不明だが、作詞は、スコットランドで国民的詩人だったロバート・バーンズが、従来の歌詞を1790年頃に一から書き直したものが現在歌われている歌詞だそうだ。
スコットランドでは長い間、新年になる直前に歌うのが伝統として愛されてきた。そして今では世界の各地でも、広く年末年始のカウントダウン〜新年の始まりの時に歌う「新年を迎える」曲となっている。
(左)スコットランドの首都エディンバラの年越し祭り「ホグマニー」で上がる花火 (右)皆で腕を体の前で交差させて手をつないで歌う
そこで今回は、あともう少しで2025年という今、新しい年を迎えるにふさわしい、この「Auld Lang Syne」を訳してみることにした。
色々と調べてみると、 ロバート・バーンズのオリジナル版(スコットランドの言葉(訛り?))とそれを標準英語に訳したバージョンがあることがわかった。
左がオリジナル版、右が英語版。1番は殆ど同じ。(出典:The Morgan Library & Museum)
しかし、YouTubeで色々聞いてみると、各歌手の歌う歌詞が微妙に違っていて、最終的な歌詞の確定が難しい
まずは、この3曲を聞いて欲しい。
⚫︎Auld Lang Syne(Sissel (シセル) )
(シセルはノルウェー出身の女性歌手。透明感溢れる歌声と安定した歌唱力が世界的に高評価。聴いていると本当に心にしみて涙が出そうになる。2008年12月30日スウェーデンTV4。1番だけ英語で、2番以降はスウェーデン語で歌っている)
⚫︎Auld Lang Syne(ロッド・スチュワート)
(2012年12月、スコットランドのスターリング城でのライブ。客席ではテーブルを囲んで手を繋いでいるのがわかる。ロッド・スチュワートの父はスコットランド出身だ)
⚫︎Auld Lang Syne(ダブリン大学合唱団)
(アイルランドの国立大学の男女混声合唱団。4番まで歌っている。2020年)
この他にも色々な歌手が歌っているが、歌う順番や単語が若干違っていたり、英語にスコットランド語が混ざっていたり、中々ややこしい。メロディのアレンジも多い。結構悩んだ結果、今回は上記のThe Morgan Library & Museum出典の歌詞をベースとし、2番と5番を入れ替えて和訳することにした。
それでは、懐かしの英語の歌を読む(20) スタート!
Auld Lang Syne
❶
Should auld acquaintance be forgot, and never brought to mind ?
古くからの知り合いは忘れ去られ、思い起こされることもないのだろうか?
Should auld acquaintance be forgot, and days o' lang syne !
古くからの知り合いは忘れ去られ、長い年月の日々が過ぎ去ろうとしている!
★
For auld lang syne, my dear, for auld lang syne,
我が友よ、懐かしい日々のために、
We'll take a cup o' kindness yet, for auld lang syne.
優しさの杯を酌み交わそう 懐かしい日々のために
❷
And surely ye'll buy your pint-cup,
And surely I'll buy mine;
君も僕も確かに一杯のジョッキを手にするはずだ
And we'll take a cup o' kindness yet, for auld lang syne.
そして、優しさの杯を酌み交わそう 懐かしい日々のために
★繰返し
❸
We two have run about the hills, and pulled the daisies fine ;
二人で丘を駆けめぐり、デイジーを上手に摘んだよね
But we've wander'd many a weary foot, since auld lang syne.
だけど私たちは、ひどく疲れた足でさまよい続けて疲れてしまった 長い年月を重ねて
★繰返し
❹
We two have paddled in the brook, from mornin' sun till dine ;
私たちは二人で小川を漕いできた 朝日を浴びてから夕食まで
But seas between us broad have roar'd since auld lang syne.
だけど私たちを荒海が隔ててしまった 長い年月を経て
★繰返し
❺
And there's a hand my trusty friend !
And give us a hand o' thine !
ここに私の信頼する友の手がある 君の手を私たちに貸してくれ!
And we'll take a right goodwill draft, for auld lang syne.
さあ、まさに友好の証として酒を酌み交わそう 懐かしい日々のために
★繰返し
★繰返し
どうだろう。この歌を歌いながら旧友と盃を酌み交わしたい気分になってきただろうか。
スコットランド民謡のメロディは、日本人の心に響くものが多い。「蛍の光」の他にも、こんなに素晴らしい曲がある。
⚫︎アニー・ローリー(Deanna Durbin)-YouTube
⚫︎マイボニー(Shaylee)-YouTube
⚫︎故郷の空(NHK東京児童合唱団)-YouTube
ちなみに「故郷の空」は、ザ・ドリフターズの歌う「誰かさんと誰かさん」-YouTube」の原曲「Comin' Through the Rye (Jo Stafford)」-YouTube」と同じである。同じ原曲からこんなに違う曲が生まれるなんて、音楽ってほんと面白い。
(番外編)
「蛍の光」と「別れのワルツ」
「別れのワルツ」・・ と言っても、ショパンのワルツ第9番-YouTubeではなくて、デパートの閉店が近づくと流れ始める、あの「別れのワルツ」のことである。「蛍の光」と酷似していて、いくら「蛍の光」は4拍子、「別れのワルツ」は3拍子、だと分かっていても、ただ聞いてるだけだと判別が難しい。時には流れているのが「蛍の光」のインストゥルメンタル版だったりするし。
「別れのワルツ」は、1940年のアメリカ映画「哀愁」の名シーンに使用するため「オールド・ラング・サイン」をワルツ風にアレンジした楽曲なのだそうだ。私はこの映画を観たことはないが、Wikipediaによると、主役の2人がクラブで踊るシーンで、レストラン閉店前の最終伴奏曲として流れたため、後に閉店時の曲として定着したらしい。
⚫︎映画「哀愁」でワルツを踊るシーン
(主演はヴィヴィアン・リーとロバート・テイラー。「風と共に去りぬ」の翌年の映画だ。演奏が終わってローソクの灯りが消え見つめ合う二人。最後に「Auld Lang Syne」が3拍子で歌われていた。いつか観てみたいな)
この映画が日本で1949年に公開された時に、コロムビアレコードが、あの古関裕而に採譜と編曲を依頼した。そしてできた曲に「別れのワルツ」のタイトルを付けて日本でレコード化され、大ヒットしたのだという。
それでは、「蛍の光」と「別れのワルツ」を聴き比べてみよう。違いが分かるだろうか?
⚫︎蛍の光
(4拍子。1938年(昭和13年)、コロムビアから発売されたレコードより。歌うのは東京音楽学校の生徒。蛍の光は、戦前、海軍兵学校の卒業式典曲としても使われたそうだ。今では歌われない3番、4番の歌詞にその痕跡が残っている)
⚫︎別れのワルツ
(3拍子。ユージン・コスマン管弦楽団)(閉店ナレーション付き-YouTubeも見つけた😁)
2024年の振り返り
能登半島の大地震から始まった2024年(令和6年)。ロシアのウクライナ侵略の解決の糸口は見えず、中東では、イスラエルのパレスチナガザ侵攻もひどくなる一方だし、シリアのアサド独裁政権は崩壊したものの予断を許さない状況だ。
アジアでも、北朝鮮がロシア支援のためウクライナに出兵し、台湾の周囲で中国が軍事演習の規模を拡大し、親米だった韓国大統領は弾劾決議を受け、反日・反米の政権に変わりそうである。
地球温暖化についても、世界共通の長期目標「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」はもう不可能と諦めたくなるような、世界中に異常気象が起きている。
そんな中で、世界中でリーダーを選ぶ重要な選挙が集中した2024年だった。今年世界各国が選んだリーダー(政権)は、後世の歴史の中でどのような評価をされるのだろうか。良い評価になる気が全くしないけれど・・。
歴史学者エマニュエル・トッドによると「世界は第3次世界大戦に向かっている」のではなく、むしろ「すでに第3次世界大戦は始まっている」のだそうだ。初めて聞いたときは、えっ?と思ったが、第2次世界大戦の始まりの頃の状況を考えてみると似ているような気もする。果たしてどうなのだろうか。
所得税の壁も勿論すごく大事だが、何兆円もの防衛費が殆ど議論されずに予算化されている今の現実が怖い。世界中がきな臭くて怖いから仕方ないのかなと思ってしまう自分が怖い。これでは昔と同じではないか。ちなみに、2024年度は7.7兆円、2025年度概算要求は8.5兆円(他国を攻撃できる長射程ミサイル開発費も入っている)である。
心配なのは、今の世界情勢の中での日本の立ち位置とリーダーシップだ。日本はどういう国になるべきか、絶対に戦争に巻き込まれないためにはどうすべきか、その舵取りが今の政治家に出来るのか?と考えると心配でならない。
心が苦しくなるニュースばかりの中で、大谷翔平の米国MLBでの活躍は、とても嬉しかったし、未来への希望を与えてくれた。身体をよくメンテして、無理せずに長く活躍して欲しいと切に願う。
パリオリンピックの期間も、少し穏やかな気持ちになれた。世界中の国同士の戦争を、全てスポーツの競争で代替できないものか、なんて、ふと夢に見てしまった。エマニュエル・トッドの話が、何とか笑い話で終わって欲しい。
最後に
2022年春頃からこわごわと記事を書き始め、2022年12月末に一般公開した私たち(🙋♂️🙋♀️)の夫婦ブログ「武蔵野つれづれ草」も、この12月でまる2年を迎えました。それこそ時には夫婦喧嘩もしながら、年間70件くらいの記事を書き、合計でやっと160件を超えたばかりです。
(夫婦ブログを立ち上げた2年前の記事と、その1年後の記事です)musashino007.hatenablog.com
ここまで続けて来られたのは、私たちのブログに訪問してくださる方々、そして、スター、コメント、ブックマークをしてくださる、たくさんの読者の方々のおかげです。改めて心から感謝申し上げます。本当にありがとうございます。
私たちの夫婦ブログは、見たこと、感じたこと、残したいことを、つれづれなるままに綴るブログです。夫婦共同(👬)で書いたり、個々(🙋♂️/🙋♀️)に書いたりするので、テーマもジャンルも内容もさまざまで、統一感のあるブログではないと思います。そこは何卒ご勘弁ください🙇♂️🙇♀️
でも、書くことを通じて頭の体操にもなり、ボケ防止にも繋がるので、「産みの苦しみ」はありますが、今は書くことが楽しいです。これからも2人で楽しみながら続けられたらいいなと思っています。来年も引き続きよろしくお願い致します。
あともう少しで2024年も終わります。手を繋いで「Auld Lang Syne」を歌いながら賑やかに新年を迎えるも良し、除夜の鐘を聴きながら静かに新年を迎えるも良し。どちらにしても、平和な2025年になりますように😊
それではみなさん、
良いお年を!
Best wishes for the new year!
Guten Rutsch ins neue Jahr!
⚫︎今までの「懐かしの英語の歌を読む」は、下記にまとめてあります。よろしければクリックしてご覧ください。
(1) CARPENTERS「YESTERDAY ONCE MORE」
(2) CARPENTERS 「TOP OF THE WORLD」
(3) Celtic Woman「You Raise Me Up」
(4) Rechard Sanderson 『ラ・ブーム』より「愛のファンタジー(Reality)」
(5) ABBA 「Dancing Queen」
(6) Bob Dylan 「Blowin’ in The Wind (風に吹かれて)
(7) Audrey Hepburn「Moon River」
(8,9,10) クリスマスソング 「White Christmas 」「Blue Christmas」「Silent Night」
(11) Air Supply「Lost In Love」
(12,13) Bee Gees『小さな恋のメロディ』から「Melody Fair」「First of May」
(14)「ダニー・ボーイ(Danny Boy)」
(15)「哀愁のカサブランカ」原曲
(16) Procol Harum「青い影」
(17) Celine Dion「My Heart Will Go On」
(18) Bobby Vinton「Mr. Lonely」
(19) Mary Hopkin「Those Were the Days(悲しき天使)