先月、「改正皇室典範」が成立した。
「改正皇室典範」によるシミュレーション。養子による皇族増と男系男子の皇位継承を狙う。愛子内親王は、結婚後皇族として残ることはできる。しかし男子が生まれたとしてもその子は一般人。直系なのに母親が女子だから。これが「女系天皇の排除」という意味である。 (日テレ『news zero』より)
翌日の朝日新聞朝刊(7月18日)に、今回の結果に対し、賛成派と反対派の有識者二人のコメントが並んでいた。そのうちの賛成派の日本大学名誉教授・百地章氏のコメントを読んで、私は大きなショックを受けた。因みに、反対派の有識者は、東大名誉教授・本郷恵子氏である。
まずはその賛成派のコメントを(少し長いけれど)読んでいただきたい。
◆女系天皇の可能性排除、評価
(百地章:日本大学名誉教授)一貫して男系で継承されてきた皇室の解体を意味する女系天皇の可能性を排除し、画期的な皇室典範改正となったと高く評価します。
旧11宮家の男系男子を養子に迎える案は、名目上は「皇族数の確保」ですが、男系男子による皇位の安定的継承に向けて力強い一歩を踏み出すものです。男系より直系継承を優先すべきだと考える人もいるでしょうが、理屈の問題ではなく皇統は常に男系でつながってきました。2千年近い歴史の中、直系の皇統の危機を何度も傍流の系統によって乗り切ってきました。
養子となりうる旧11宮家の男系男子は現行憲法下でも5カ月間皇族で、皇位継承権も有していた方々の子孫です。離脱時の一時金について国会審議を待つ必要があったに過ぎないという背景事情を挙げる人もいますが、その間に継承権があった事実は変わりません。
現在の皇室と旧宮家は親戚関係であり、新年など様々な行事で交流もあります。一般人として生活してきたとはいえ、由緒ある方々なのです。
また、独自に調査したところ、1月1日時点で四つの旧宮家に30歳以下の男系男子が少なくとも11人います。東久邇家に6人、賀陽家と竹田家に各2人、久邇家に1人です。
最低でも4人くらいは養子となっていただき、将来は宮家の当主として、天皇となられた秋篠宮家の悠仁さまを支えていただくことが望ましいと考えています。
男系男子による皇位継承が続く限り、養子が実現しても「男子を産まなければならない」という重圧に皇室の方々はさらされ続けるという指摘があります。それは申し訳ないことですが、皇室には「天皇に私なし」という伝統があり、国民にとっては感謝すべきこと。皇位とは公のものであって、私情はある程度抑えてでも皇位を伝えることが大事だと考えていただきたいです。
女性皇族が結婚後も身分を保持する案については先例があり、皇室の歴史に整合していると言えます。ただ、あくまで例外としての扱いでした。よって今回は特別措置法によって臨時的な措置にとどめるべきでした。(musashino007補足:百地氏は、女性皇族が結婚後皇族に残ることさえ絶対反対だったようだ)
多くの国民は、現在の皇室の活動に報道などを通じ、親しみを覚え、「愛子天皇」を期待する人もいますが、皇室はアイドルと同じ次元ではありません。126代続いてきた皇室の系図を知れば、身近な存在であるかどうかだけで判断することはなくなるはずです。
ジェンダー平等や、長子優先に転換したヨーロッパの王室の先例から、男系継承に疑問を持つ声もあります。しかし、男系の皇統を守り伝えてきた皇室とジェンダー平等は最も遠いところにあり、そうした現代的な価値観だけで2千年近い歴史と伝統を変えるのは、現代人の思い上がり以外の何ものでもないと考えています。
これを読んで「そうだそうだ」と思う人も多いのかもしれないが、首を傾げる人はもっともっと多いような気がする。
男系男子継承にこれほどまで固執し、女性・女系天皇をこれほどまで蔑視するのは何故なんだろう。愛子内親王は、幼少の頃から天皇・皇后の側でその発言を聞き、立ち居振る舞いを見て育っている。天皇とはどうあるべきかを一番理解しているように見える。一朝一夕に身につけられるものではない。直系だからこそ出来る王道教育だ。現在の皇族の中で、天皇として一番相応しいと思う日本人が多いのは、自然の流れではないだろうか。
にも関わらず、今回の改正皇室典範では、女性天皇を認めないだけでなく、愛子内親王が女子だからという理由で、その子供は天皇の孫なのに皇族にもなれないように定めた。女系天皇排除のためである。結果的にこれは、現在の天皇・皇后の直系の系統(本流)の断絶を意味している。
ところが、36親等以上も離れた男子が養子になった場合は、その子供は男女とも皇族であり、かつ子供が男子ならば、傍流なのに "皇位継承資格" まで有するのだ。(一番上のシミュレーション図を参照)
伝統とは時代に合わせて変化していくものだと思う。2千年にもわたる(…法律論議に神話の世界を持ち出す百地氏もどうかと思うし、実は、男系天皇を法として定めたのは、明治時代(1889年)の大日本帝国憲法第2条からである…)長い男尊女卑の歴史を経て、やっとのことで80年前に男女同権を獲得できたのだ。国民の総意に基づく天皇である。この現代で、男女どちらでも天皇になれるというのは、そんなに忌むことなのだろうか?
本人が「理屈の問題ではなく皇統は常に男系で!」と言い切ってしまっているので、これでは建設的な話し合いにならない。家父長制度の戦前に戻ったかのようだし、まるで新興宗教の人の話を聞いている感覚になる。
彼は最後に「現代人の思い上がりの何ものでもない」と語っているが、皇族をまるで"駒"のようにみなしている百地章氏の発言こそが、考え方こそが、私には思い上がりに感じるのだ。
このような歴史観・国家観を持つ百地章氏という人物は、一体どんな人物なのだろうか。新聞記事の人物紹介にはこう書いてあった。
百地章氏の専門は憲法学で、国士舘大学名誉教授、日本大学名誉教授。皇室典範に関する2012年の政府有識者ヒアリングで旧宮家の男系男子の皇籍復帰を訴え、21年の退位特例法の付帯決議に関する有識者会議で意見を述べた。
また、Wikipediaからは百地章氏のこんな経歴がわかった。
❶静岡大学の学生時代、「生長の家(注1)学生会全国総連合」で民族派学生運動に関与。
❷全日本学生文化会議(注2)の結成にも関与し第1回大会「日本の文化と伝統を護る学生の集い」を運営した。
❸安倍晋三のブレーンの一人。2012年自由民主党総裁選挙の際は、「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」発起人に名を連ねた。
❹日本会議(注3)の政策委員を歴任。
(注1) 生長の家
1930年(昭和5年)に谷口雅春が創設した新宗教法人。「神・自然・人間は本来一体なり」という教え。保守的な教義を持ち、かつては自由民主党から組織内候補を擁立していたが、1983年から自民党と距離を置くようになり、2016年からは明確に自民党への不支持を表明した。(注2)全日本学生文化会議
全国の保守系学生サークルや学生団体が加盟する連合体。1969年(昭和44年)5月に結成された後、一旦断絶し、昭和50年代に再結成された。主な活動目的として、日本の伝統文化の継承、歴史・国際問題についての学習や議論、各地での啓発活動などが行われている。(注3)日本会議
1997年5月30日に設立された、日本の保守系政治・宗教団体。右派から極右とされる、日本最大の保守主義・ナショナリスト団体である。
会員は約3万8,000名。全47都道府県に本部が、また241の市町村支部がある。関連団体に「日本会議国会議員懇談会(注4)」「日本会議地方議員連盟」「神道政治連盟」「皇室の伝統を守る国民の会」「美しい日本の憲法をつくる国民の会」「明治の日推進協議会」「日本女性の会(注5)」等がある。(注4)日本会議国会議員懇談会
「日本会議」を支援する目的で、1997年5月29日に設立された。大多数は自民党国会議員だが、他党の一部議員も参加する超党派の議員連盟。会長:古屋圭司(自民党衆議院議員・衆議院憲法審査会会長)、特別顧問:麻生太郎、副会長:高市早苗・菅義偉。発足時の参加国会議員数は189人だったが、現在は260〜300名規模とされている。(注5)日本女性の会
日本会議の女性組織であり、全国に女性の会がある。現在の会長は不明。日本の伝統や慣習、歴史に根ざした家庭教育を推進し、道徳心や規範意識の育成を目指している。女系天皇否定、南京大虐殺や沖縄戦の集団自決の日本軍関与否定、教育勅語採用賛成、 選択的夫婦別姓反対、中国脅威のための軍事力増強など、かなりの右派で有名なジャーナリストの櫻井よしこ氏が、長年この会の中心的な提言者および講師として活動している。
やはり、百地章氏は、静岡大学の学生時代からバリバリの右派の経歴をお持ちだった。「日本会議」の政策委員として、安倍晋三元首相のブレインとして、自民党政権に影響を与えてきたようだ。百田氏の新聞での発言もむべなるかなだ。
そして、予想どおり出てきた
「日本会議」。
この「日本会議」というごく平凡な団体名、皆さんは耳にしたことがあるだろうか? 日本メディアではほとんど報道されていなかったが、多くの外国メディアからは、特に安倍政権になってから、かなり詳細な分析記事が報道されてきた。
例えば、2015年12月3日のオーストラリア・ABCテレビでは、このように言っている。
日本で最も影響力を持つと思われるこの政治組織の正体は、ほとんど知られていない。日本会議とは、日本の政治を作り変えようとしている極右ロビー団体である。安倍晋三首相以下、閣僚の8割及び国会議員の半数が名を連ねている。究極のロビー団体として、ほとんど表に立たないような形で活動し、3万8千人の会員を使って支持を集め、国策を練り上げている。日本会議は超国家主義で歴史修正主義的な一連の目標 〈天皇の権威の復権、女性の家庭への従属、そして再軍備〉 を掲げている。
第二次安倍内閣の長期化と併せて、自民党政権の中枢において、「日本会議」の影響力が強まっていったと類推できる。上でも書いたが、この報道から10年後の今、「日本会議国会議員懇談会」の副会長は、現首相の高市早苗自民党総裁(首相)、特別顧問は、元首相の麻生太郎自民党副総裁である。
ここまでの状況を踏まえれば、今の自民党の歴史観・国家観は「日本会議」とほぼ同じと考えて良いだろう。高市政権の極右的考え方も「日本会議」の影響があるに違いない。
一体、「日本会議」の具体的な歴史観・国家観とはどんなものなのだろうか?
実は、私は「日本会議」及び関連団体について、上の記事に書いてある事くらいしか、現時点では把握していない。そもそも外国メディアが "この政治組織の正体は、ほとんど知られていない" と書いているくらいだから、まるでブラックボックスみたいだ。
だとしても、私はこれら団体のことをもっと詳しく知りたい。そうすれば、今のこの世の中の空気感が急激に変わってきた根本的理由が、少しでもわかるかもしれない。
国民の7割以上が女性・女系天皇を支持しているにも関わらず、それを無視して法律を成立させる高市政権とは何かが理解できるかもしれない。
国民の大多数が望んでいる円安対策や物価高対策よりも、国旗損壊罪や改正皇室典範を優先して成立させ、更に、財源の無い無責任な消費税減税をしながら、軍事費増強や安保三文書改定と憲法改正に驀進しようとしている狙いがはっきりするかもしれない。


(左)為替変動(米ドル/円)4年半(東京海上アセットマネジメント)
(右)消費者物価指数(全国、持家の帰属家賃を除く総合。1991年の値を1.00とした時)34年半
そういうわけで、「日本会議」及びこれに関係する団体について、どんな歴史観・国家観を持ち、どのような体制で政治(日本)を動かしているのか、彼らの最終的な目標は一体何なのか、自民党が日本会議を使って政策を実現させているのか、それとも、日本会議が自民党を操っているのか、どちらでもないのか? 出来るだけ右/左に偏ることなく、自分なりに調べてみよう。
今回の記事は、言わば「プロローグ」。
まずは、ネットの公開情報や市販の書籍から調べてみるつもりだ。多分本当の実態は掴めないだろう。取り敢えず、公開情報などから全体像が推測できれば良しとしよう。時間は結構かかりそうだが、今の高市政権の動きが想定以上に早いので、適宜分かったことから報告出来ればと思っている。日本の未来を左右しそうだから。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。