武蔵野つれづれ草

リタイア後を楽しく!と始めた凸凹夫婦の面白ブログ。見たこと、感じたこと、残したいことをつづります。

🙋‍♂️世界的ベストセラー『マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険』を読んで思うこと


原著がアメリカで刊行されたのは、2021年5月だが、日本で翻訳され出版されたのは、2023年1月だ。世界的ベストセラーが日本上陸!ということで話題になり、読まれた方も多いと思う。
図書館の予約が多すぎて、中々順番が回ってこなかった待望の本。ようやく読むことができた。

マザーツリー
森に隠された「知性」をめぐる冒険
スザンヌ・シマード著、三木直子訳)

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著者のスザンヌ・シマードは、カナダ・ブリティッシュコロンビア州生まれの森林生態学ブリティッシュコロンビア大学森林学部教授である。
書籍の中で、著者はこう紹介されている。

森林の伐採に代々従事してきた家庭で育ち、幼い頃から木々や自然に親しむ。大学卒業後、森林局の造林研究員として勤務、従来の森林管理の手法に疑問を持ち、研究の道へ。木々が地中の菌類ネットワークを介してつながり合い、互いを認識し、栄養を送り合っていることを科学的に証明してみせた彼女の先駆的研究は、世界中の森林生態学に多大な影響を与え、その論文は数千回以上も利用されている。研究成果を一般向けに語ったTEDトーク「森で交わされる木々の会話(How trees talk to each other)」も大きな話題を呼んだ。

この本には、科学書の中にあるような図表やグラフなどは一つも無い。あるのは、著者の家族や友人の写真と、森のマザーツリー、菌類などの写真である。

読む前に勝手に想像していた科学解説イメージとは全く異なっており、この本は著者の人生を回顧した自伝か?と初めは戸惑った。しかし、読み進めるうちに、著者の人生と研究が網目のように絡み合い、最後まで目が離せなくなった。
著者の波乱の人生(両親の離婚、弟の事故死、研究成果の無視、自身の離婚、ガン闘病等)の中で、なぜこの研究を始め、困難な環境の中でどのように実地での実験を進めたか、マザーツリーと若木と地中の菌類ネットワークが、まるで人間の神経ネットワークのようにつながっていることをどうやって発見したのか、が丁寧に語られている。まるで著者の研究人生の使命と、伐採や森林火災の中で生き抜こうとする森のマザーツリーの使命が重なり合っているかのようだ。

目次を以下に示す。

〈目次〉
はじめに ー母なる木とのつながり
1.  森の中の幽霊
2.  人力で木を伐る
3.  日照り
4.  木の上で
5.  土を殺す
6.  ハンノキの湿原
7.  喧嘩
8.  放射能
9.  お互いさま
10.石に絵を描く
11.ミス・シラカバ
12.片道9時間
13.コア・サンプリング
14.誕生日
15.バトンを渡す
おわりに ー森よ永遠なれ!

著者は、30年以上にもわたる困難な研究の結果、例えば、次のような真実を明らかにした。
⚫︎森はインターネットのように、マザーツリーがハブ、若い木はノードで、菌根菌によって複雑なパターンで相互につながり合い、それが森全体を再生させる力となっている。森全体の命を長らえるために異種間でも協力し合っている

⚫︎また、人間の脳内で、神経伝達物質シナプス間隙を超えて一つのニューロンから別のニューロンに信号を伝えるのと同じように、菌根の内部でも、菌類の被膜と植物の皮膜が接合するシナプスを超えて信号が拡散されている。森全体が意識を有する生命体のように。

林業に携わりながら、国の政策の間違いを改善しようとしてきた著者が、長年苦しめられたのは、自然に対するこのような考え方をはねつけ、断片的な科学だけに頼る「政策決定者(政府、森林局、地位のある老学者等)」があまりにも多いということだ。そして、そのことによる影響は、もはや無視できないほどに壊滅的だと言う。
日本のことかと思ったが、カナダのことだ。1997年8月号の「ネイチャー」誌表紙を飾る特集記事として研究成果が掲載されて以来、これだけ著者の研究が全世界で支持されつつあるのに。幾分良くなったとはいえ、相変わらず完全伐採・自由生育政策がカナダ国内でまかり通っているようなのだ。

著者はこう述べている。

変革を起こすには、人間が再び自然と ー森や草原や海とー つながることが必要だ。あらゆる生き物やお互いを搾取の対象として扱うのではなくて。それはつまり、現代の私たちの生き方、認識論、科学的手法を拡大して、先住民族の文化が根ざすものを補完し、それを礎とし、協調させるということだ。物質的な豊かさという見果てぬ夢を追いかけ、単にそれが可能だからという理由で森の木々を無差別に伐り倒し、魚を乱獲すると言う行為のつけを払うときが来ているのだ。

国土の67%が森林面積である日本人だからこそ、そして、人類を起因とした温暖化等による生物(動植物)の6回目の大量絶滅を迎えていると警告されている今こそ、森の知性に耳を傾け、物質的豊かさを限りなく追い求める、我々自身の生き方を見直すときなのだろう。もう遅いかもしれないが。でも諦めずに。

573ページという読みがいのあるボリュームであるが、読んで本当に良かった。また、スザンヌ・シマード教授のTED講演会の動画も分かりやすかったので、下記に載せておいた。

⚫︎TED talks
スザンヌ・シマード教授の2016年のTED講演会
『How trees talk to each other』
    Suzanne Simard のリンク先を下記に示す。

〈TED.com 日本語字幕版, 英語スクリプト付〉 https://www.ted.com/talks/suzanne_simard_how_trees_talk_to_each_other

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YouTube 英語字幕版〉(注)
https://youtu.be/Un2yBgIAxYs


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(注)「youtu.be」はYouTubeに公開されている動画のURLを短縮するサービスですのでご安心を。