新型コロナウイルス対策のマスク着用ルールについて、日本政府の方針が3月13日に改定され、マスク着用は屋内・屋外を問わず「個人の判断」に委ねられた。個人的には、マスクをするかしないかを政府から言われて判断する話ではないと思っているが。。
ルール緩和から2週間たった今も、街中ではマスクを着用している人が多く見られる。しかし、花見🌸の席や居酒屋で仲間と飲んで騒いでいる様子をテレビで見ると、すっかり気分は「コロナ明け」になり、3年ぶりの解放気分に浸っている人が多くなったと感じる。
しかし、本当に今、そんな解放気分に浸っているだけでいいのだろうか?
2019年12月から始まったコロナは本当に収まるのか?あの頃感じた政府や自治体のコロナ対策に関する数々の疑問点や不信感は、今は解決しているのだろうか?パンデミック対策の失敗(初動対応、検査・隔離体制、病棟/病床確保、医療従事者を疲弊させない仕組み等)を反省し、次の波に対応できるアクションをきちんと取っているのか?
残念ながら、第8波までの、後手後手の対応から考えると、とても安心はできない。
日本は平時の段階から、検査・隔離・医療体制の構築や感染症病床の確保、専門的な医療者の育成などの感染症対策を準備してこなかった。それでいて「いざ発生!」となっても、甘い初動対応とサイエンスを無視した対策が続き、医療崩壊を作り出してしまった。
今まで(3月27日まで)の累計陽性者数は33,424,672人、累計死亡者数は73,764人も出ている。私たちはまだパンデミックの途上にいるのだと思う。
東京都は28日、新型コロナウイルスの新たな感染者1,001人と死者2人を確認したと発表した(全国では新規感染者8,045人、死者27人)。新規感染者が1,000人を超えるのは3月1日以来。前週の同じ曜日から124人増え、6日連続で1週間前を上回った。
当たり前だろう。まだコロナウィルスは収まっていないのに、通常の生活に戻れば、感染者は徐々に増えていくことは素人でも予想できる。
そんなパンデミックの最中だからこそ、今回是非とも紹介したい本は、
『秘闘 私の「コロナ戦争」全記録』
である。著者の岡田晴恵氏が自身の新型コロナとの闘いを、関係者の実名を明らかにして書き下ろしたものであり、2021年12月に出版された。
例えば、尾身分科会会長、岡部信彦所長、西浦博教授、田村前厚労大臣ら、コロナ対策を指揮した中心人物との生々しいやり取りで、コロナ禍の真実があぶり出される。この国の矛盾と歪みに直面した著者が、「秘められた闘い」の日々を書いている。
著者は、国立感染症研究所、ドイツ・マールブルク大学医学部ウィルス学研究所などを経て、今は白鷗大学教授である。コロナ関連のテレビ出演で良く目にしたはずだ。
この本が扱っているのは、新型コロナの第1波から第5波までの約2年間である。本の冒頭に「新型コロナウィルス発生時からの主な出来事」がわかりやすく書いてあるので下記に引用した。時間軸は右から左である。
新型コロナウィルス発生時からの主な出来事
また下図は、まだ私が企業人だった2022年1月に、全社員に対してTeamsで行った、2022年の年頭挨拶で使った資料である。時間軸は左から右である。第5波が収まっても変異ウィルスが心配なので、今まで以上に気をつけよう、と講話した記憶がある。岡田晴恵氏がこの時期に、ここまでのコロナとの闘いについて本を著していたとは、当時は知らなかった。
2022年1月年頭挨拶資料
そして、この本が書かれた後、現在までにどうなったのだろうか?
第1波から第8波までの感染者数と死者数の推移をグラフにしてみた。『秘闘』で扱っている第5波までの感染者数とは「次元の違う感染爆発」が3回も起きていることに、改めてため息をつく。
新型コロナ感染者数・死者数の推移(2023.3.27作成)
言うまでもなく、波が起こるたびに、あれほど政府や厚労省に対して、PCR検査の大幅増、陽性者の隔離施設、コロナ感染病床の確保などが求められていたにも関わらず、いつも後手後手にまわり、結果的に医療崩壊を起こすことになった。
どれだけの人が検査も受けられず、入院もさせてもらえず、苦しんだろうか。
第9波が来ない保証は無い。変異ウィルスが発生するかもしれない。新たな別の怖いウィルス感染症が発生するかもしれない。生々しい記憶が残っている今こそ、解放気分に浸ることなく、過去をしっかりと思い出し、日本の新型コロナ対策(感染症対策)を検証・反省し、将来に生かすべきだと思う。
だからこそ、この本をみんなに読んで欲しい。
最初はどのようなことが書かれているか、引用しながら紹介しようかと考えたが、素人には難しい。やはり、読むのが一番!。目次だけ紹介する。
第1章 新型ウィルス発生
クリスマス・イブのメール/留学時代の財産/かつての日本の幸運/中国の公式発表/指揮官のタイプ/「モーニングショー」の現場で/岡部氏の「用意周到」/感染症対策を政治家に説明すると/機能しないWHO/学者の矜持/春節がやったきた/特措法への障壁第2章 間違いだらけの対策
ダイヤモンド・プリンセス号入港/政治家たちからの電話/専門家会議/「37.5度以上の発熱4日以上」という縛り/最大の失敗/報道のスタンス/感染症ムラ/マスク不足の春/「3密」の強調/いわれなき炎上/週刊誌記者/謝れる人と謝れない人第3章 緊急事態宣言へ
接触制限ばかりの対策/国家の意思決定は誰の手に/宣言解除の数字/「ファクターX」/パンデミック対策の覚悟/「緩めたら、すぐ戻る」/都知事は再選すれど/分科会のごまかし/若い世代からの感染拡大開始/GoToキャンペーンの衝撃/エアロゾル感染のリスク/検査もできない/コロナ報道の減少/アビガン承認ならず第4章 変異ウィルスの高波
入国緩和!/危険な冬が来る/この変異ウィルスの底知れなさ/発端から1年、第3波が来る/厚労大臣に切り込む/大臣の「申し訳ない」/尾身氏との会話/専門家の態度が一変する/東京の数字への違和感/サイエンスなき解除第5章 五輪開催決定の裏で
mRNAワクチン登場/「岡田さん、ADEって何?」/パブリックヘルスへの精神/もう一つの脅威/巧妙なウィルス/第4波襲来/想像を超えるインド型/「五輪は政治の問題だからね」/「安心安全の五輪」とは/「尾身の乱」は何だったか/田村大臣、兵を語る/感染拡大、されど/自粛頼みの限界/臨床医の声/五輪開幕、そして第5波第6章 コロナの前の時代には戻れないのなら
「打つ手がない」中で/「2類から5類へ」論ふたたび/「コロナと共生する」とは/ある妊婦の悲劇/コロナの本当の怖さ/医療再生への課題/最後の電話/政局の果てに/同じ場所で
なお、岡田晴恵氏は、この本が出版されてから1年後の2022年12月に、角川出版から
『コロナの夜明け』
という名前の小説を出した。
『コロナの夜明け』は、フィクションであり小説という形をとっているが、実際の中国武漢で発生した未知のウィルスによるパンデミックを扱っており、単純なフィクションではない。
感染症を最も熟知する研究者である主人公の生月碧が、現実と政府及び感染症専門家の間に挟まり苦悩する毎日を見事に表現している。また、日本はコロナ対策にどう対応したかについて、その裏側を暴き出している。主人公の生月碧は、著者の岡田晴恵氏そのものであろう。
『秘闘 私の「コロナ戦争」全記録』では関係者の実名を記しているため、さすがにボカさざるをえない部分があったようだが、フィクション小説にすることにより、内容的には真実に近づいているようだ。従って、この『コロナの夜明け』は、『秘闘 私の「コロナ戦争」全記録』とセットで読むべきで、その方が著者からのメッセージがよく理解できると思う。
過去のコロナ対応等を考えると、日本の未来はなかなか厳しいものがある。非常に心配ではあるが、希望を失わず、今後も、新型コロナの感染動向と政府・専門家等のアクションを国民として引き続きウォッチしていきたい。