武蔵野つれづれ草

リタイア後を楽しく!と始めた凸凹夫婦の面白ブログ。見たこと、感じたこと、残したいことをつづります。

🙋‍♂️『風と共に去りぬ』のヒロイン〈スカーレット・オハラ〉が生きた時代を想う


風と共に去りぬ
は私の大好きな映画の一つだ。テレビで放映されれば必ず見たし、DVDも持っている。全編で3時間42分という長編だが、そのスケールの大きさとドラマティックなストーリーにいつも圧倒される。

言うまでもなく、ハリウッドの永遠の名作、永遠の古典である。マーガレット・ミッチェルが10年間かけて書き上げた小説を原作として1939年(昭和14年)に米国で制作・公開された(日本公開は1952年(昭和27年))。なんと太平洋戦争直前の映画だ。この年は欧州で第二次世界大戦が勃発し、アジアでは満州ノモンハン事件が起きた年だ。

オープニングタイトルで流れるテーマ曲「タラのテーマ」。その後も繰り返し流れ、後世に残る名曲となった。この曲を耳にするだけで、スカーレット・オハラヴィヴィアン・リーがタラ農場の大地に凛と佇む姿が目に浮かぶ。

今回は、たまたま「謎解き『風と共に去りぬ』」という本を手にしてから、今まで一度も読んだことの無かった原作「風と共に去りぬ」を全巻読みたくなり、読んだ後には、結局、映画「風と共に去りぬも見ることになった。ヒロインのスカーレット・オハラ南北戦争の中で生き抜いた1860年代に思いを馳せ、原作と映画の両方で涙を流すのは初めてだ。そんな「風と共に去りぬ」の世界を今回は紹介したい。

 

1. 謎解き『風と共に去りぬ』を読む

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今回紹介するこの本は、映画の裏話的解説ではない。1936年6月に出版されたマーガレット・ミッチェルの原作について、本の翻訳者である「鴻巣友季子」氏が、一文一文翻訳していく過程で分かった、原作の世界と映画の違い、登場人物の分析などを、「テキスト分析(文章内容を客観的、数量的に分析する方法)」という手法により、非常に興味深く解説してくれている。


著者が本書で挑んでいきたい「謎」として、以下の点をあげている。

「はじめに」より

たとえば、大きな謎では、

・本作はなぜ歴史的ベストセラーになり得たのか?
・この歴史的長編を一気に読ませる原動力と駆動力はどこにあるのか?

・本作の「萌え感」はどこから生まれるのか?

・魅力的なキャラクターたちはどのように作られたのか?

・性悪なヒロインが嫌われないのはなぜなのか?

・作者が人種差別組織のクー・クラックス・クランを登場させたのはなぜなのか?

・作者が人種差別主義だと言う誤解は、この小説のどこから来るのか?

もっと具体的な謎では、

・なぜスカーレット・オハラはまずハミルトン青年と結婚するのか?

・なぜアシュリー・ウィルクスはメラニー・ハミルトンを妻に選んだのか?

・レット・バトラーが初対面のメラニーの瞳に見たものはなんだったのか?

・レット・バトラーが唐突にスカーレットを"捨てて"入隊するのはなぜなのか?

・アシュリーはなぜ自分の妻を"恋人"のスカーレットに託したのか?

メラニーは夫とスカーレットの関係を知っていたのか?

この謎とき本を読むだけで、上記の謎に近づくことができるのだ。映画のシーンを思い浮かべながら、「なるほど、そういうことか〜」と納得することが多かった。「風と共に去りぬ」を好きな人には是非読んで欲しい。

しかし、原作の著者であるマーガレット・ミッチェルはハリウッド映画の仕上がりには死ぬほどのショックを受けたそうだ。同時に、幻想の南部像を信じたがる観客の反応にも落胆したようだ。

こう聞くと、映画しか知らない自分としては、なおさら原作をきちんと読んで映画と原作の違いを知りたくなる。ということで・・。

 

.『風と共に去りぬ』全巻を読む


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もちろん原作を読むなら、謎とき『風と共に去りぬ』著者の鴻巣友季子翻訳版「風と共に去りぬを読むべきだろう。全5巻合わせて2,377ページに及ぶ大作だが、夢中で読んだのは言うまでもない。

冒頭は主人公についてこんな描写から始まる。時は南北戦争の始まる1961年スカーレット・オハラは16歳である。

スカーレット・オハラは実のところ美人ではなかったが、たとえばタールトン家の双子がそうだったように、ひとたびその魅力の虜となった男たちには、美人も不美人もなくなってしまうのだった。その容(かんばせ)には、フランス系の海岸貴族である母の繊細な目鼻立ちと、アイルランド人である赤ら顔の父の造作が、鮮やかに交じりあっている。とはいえ、顎の線はくっきりと角張り、顎(おとがい)にかけてすっと尖った輪郭、かなり目をひく顔立ちである。瞳は茶色みの無い浅翠で、しっかりとした黒い睫毛に縁どられ、心もちつり上がっていた。

映画のヴィヴィアン・リーをイメージできるだろうか?

今回、原作を読んでみて、初めてわかったことは、あらゆる場面で主人公スカーレット・オハラの「心の中」がこと細かに語られていることである。ここが映画とは全く異なっている。

映画の中では黙っていたとしても、原作の中で著者は、まるで喋っているかのようにヒロインの気持ちを目一杯語らせている。その中身を読むと、映画で感じる以上に、とてもヒロインとは思えないような、自信家で、我儘で、自分勝手で、相手の気持ちを理解しようとしない、普通は絶対共感できないような女性なのだ。
しかし、腹を立てながら読み進めているうちに、生きていくために彼女が選ぶ困難な選択に対して「頑張れ!」と言いたくなってくるのが不思議だ。

強い意志を持ち、困難な状況に直面しても諦めずに戦い続ける姿勢が魅力的に思えてくる。彼女は、南北戦争の時代に生きた女性として、自分の生き方や信念を貫き、人生において多くの困難を克服する。そこがヒロインの性格に難があっても愛される所以だろう。


また、原作では映画に比べてはるかに多くのユニークな人物が登場し、かつ魅力的にきめ細かく描かれている、ということがわかった。この小説が愛されるのは、大勢のキャラクターが動乱の時代の中でどう生きたかを、複雑な人間関係を通して描いた物語だからかもしれない。

悲しい場面がいっぱいあって、読みながら涙を流すのも久しぶりだった。スカーレット・オハラとレット・バトラーの出会い方が違っていたら?互いにもう少し素直なことばをかけることが出来たら?アシュリーがもっと早くNOと伝えていたら諦めたのか?とか色々なことも考えてしまう。

 

映画の「風と共に去りぬ」しか知らなかったが、原作を読むことによって、新たな「風と共に去りぬ」の世界を知ることができた。マーガレット・ミッチェルが言っているように、映画と原作は世界観が違う。映画は映画なりに素晴らしいが、原作の世界が本来の作者の伝えたい世界なのだろう。

有名な映画なので一度は見ている人が多いと思うが、2,377ページの原作にも是非チャレンジして欲しい。新たな発見があり、南北戦争時代の米国で人々がどのように生き抜いてきたのか、想いを馳せることができる。

 

ちなみに、物語の中の最大の柱である南北戦争とは、1861年から1865年の4年間にわたる米国内の内戦である。

Wikipedia南北戦争」より

南北戦争」は、1861年から1865年にかけて北部のアメリカ合衆国と合衆国から分離した南部のアメリカ連合国の間で行われた内戦である。奴隷制存続を主張するミシシッピ州フロリダ州など南部11州が合衆国を脱退してアメリカ連合国を結成し、合衆国にとどまったその他の北部23州との間で戦争となった。

物語の中で主人公スカーレット・オハラが愛する「タラ農場」は、南部連合の11州の中の1つジョージア州にある。

 

3. 映画『風と共に去りぬ』を見る

当然ここまで来ると、再度、映画版「風と共に去りぬ」を鑑賞すべきだろう。
久しぶりに映画を見たら、やはり、ストーリーと映像のダイナミックさに感動し、主要人物4人(ヴィヴィアン・リークラーク・ゲーブル、オリビアデ・ハビランド、レスラー・ハワード)が織りなす波乱の物語にため息をついた。泣くところではやはり泣いた。やっぱり凄い映画だ!

 

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しかしながら、以前とは少し違ったところがある。それは、3時間42分という長編にも関わらず、「風と共に去りぬ原作の短縮版を見ているような気がしたことである。それは原作がものすごい「濃厚な」小説であり、映画には省略されているストーリーがたくさんあるからであろう。また、原作では重要だと思われる人物が全く出ていなかったり、ストーリーが変えられている場面もある。

 


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映画「風と共に去りぬ」のパンフレット

決して映画より原作がいいというわけではない。映画も原作もどちらも素晴らしい。ただし、原作と映画はまったく別物だと言ってもおかしくはない。著作者マーガレット・ミッチェルが本当に伝えたかった「風と共に去りぬ」を知りたければ、映画だけではわからない。原作を読まなければ絶対わからないと思う。

 

今回、謎解き本から始まって、原作、映画と発展したが、結構刺激的で面白かった。好きな映画に原作があれば、映画と原作の両方を味わい、それぞれの世界を堪能したい
難点は、時間がかかることだ。でも色々な映画でチャレンジしてみたい。「戦争と平和」とか「ベン・ハー」とか・・。どうしたらいいだろう?他にもやりたい事がいっぱいあるし。悩む。。

 

スカーレット・オハラなら、こう言うだろうか。

「とりあえず、なんでもあした考えよう。明日になれば耐えられる。明日になれば思いつく。だって、あしたは今日とは別の日だから」